メタフィリア ラボラトリー
occultism

数秘学 (2) 108思想巡礼


 「108」という数は現代の我々にとっては中途半端で、そこに神秘性があるとは思いがたい。 そして我々にはその数を崇める理由が見当たらない。けれどもそこには何らかの理由がある はずである。 この数字の意味深な響きに魅せられた僕は、それを解読するための次のステップへ踏み出し た。それはまず、この数字を現代人にとって意味ある数字に置き換える作業から始まった。
 先の章で108思想と黙示録を繋いだ『216=6×6×6』の式。これは別の角度からみて みると、「216」の六進法表記が「1000」であることを指し示めしている。僕はこれに気付い た当初、この数学的美しさに惹かれはしたが、それが重要なことだとは思ってはいなかった。 だが、この物語の核心はそこに隠されていたのであった。



 順を追って説明しよう。

 我々は日常生活で十進法を基本とし、それを当然のように思っているけれど、バビロニア文 明では60進法が標準だったし、エジプトやローマでは用途によって12進法を使っていた。 その名残りは今もある。時計の進行が60進法と12進法を基礎としているのがそう。これらを 考えるうえで重要なのは、数字そのものは自然界に存在しないという事だ。
 古代において数学が必要とされたのは農耕の為だと考えられている。(狩猟採集民族はあまり数 学を必要としていない。)それは農耕に適した季節の到来を予測するために、天体の運行に法則 を与えねばならなかったからだろう。収穫高の計算のために数学が生まれたという考え方も あるが、どちらにせよ数学が初めのころ、天文学と密接な関係にあったのは確かなことなの だ。それは天文学から数学が生まれたと言ってもいいくらい。
 今現在、僕達は4直角を360度としているのだけれど、この360という数字は一年の365日に 由来する。それが370ではなく360になったは数学的に扱いやすいからだろう。360度であれば 12で割ることが出来る。一年が12ヶ月で構成されているのは、月と太陽の関係によるもので、 月が地球の周囲を一回りするのに必要な時間がおよそ29.53日あって、12周するとほぼ一 年が経過する。
そして一年は12ヶ月となり12進法の先駆けとなった。

 この様に昔の人々は世界に様々な数字を与え、そして数字もまたそれによって深い意味を 得る事となった。 数には魔力がある。 それは数字とは法則であり法則とは未来予測である からだ。数学を究めたものはその魔力を持って未来を知る力を得るのだ。
映画『π』の主人公は言う。
 「世界は数によって支配されている。全ての事象は数字によって 記述する事が出来る。」 
 これが真理であるか否かはさておき、そのような大それた事を最初 に言ったのは、かのピュタゴラスであった。
 前6C頃、彼は様々な数学の法則を発見し、その魔力に惹かれていった。それはもう神秘思 想の領域に踏み込むもので、彼を中心に数学を信奉する教団が作られているのだが、これ はピュタゴラス派と呼ばれ「神は数である」をモットーとした凄い人たちの集団である。その時 代はまだ無理数とかの概念が浅く、彼は世界を全て整数によって記述する事が可能だと信じ ていたのだが、それは彼の美学であり宗教的な理由もあった。 彼は有名な定理のほかに音楽に関してもある発見をしているのだが、それは協和音の原則 (※1)と呼ばれるもので、「1~4」の整数比になる長さの2つの弦を振動させて出来る音は、綺 麗なハーモニーを奏でるということ。また1~4までの数の和は10になる。それはちょうど人が 指折り数えられる値でもあり、なにより「テトラクテュス(4つの数の和)」(※2)と呼ばれて、ピュ タゴラス派においてとりわけ神聖な数とされていた数だった。 そうした様々な符合から「1~4」の整数はより強い魔力を有す数字だったのだ。
 法則とはいつの時代も簡潔であることが美とされ、単純明快でありそれでいて無矛盾であるこ とが要求されるもの。そして彼の発見した法則は美しく、それゆえに、何よりも無矛盾でなけ ればならなかった。 教団内部で発見されて問題となっていた √2 (ルート2:正方形の対角線の長さ)の存在を口外した者が秘 密裏に殺される、なんてこともあったらしいが、まあ、それも当然のことだったのだろう。

 このようにピュタゴラスは精力的(狂信的)にも幾何学的な見地から数秘学世界を構築してい ったのであるけれど、数が魔力を持ったのは何もこの時代が最初では無かった。 それ以前から数字には神秘的な意味が含まれていて、数は当初それと対応していた実世界 の現象を離れて、より神秘的・宗教的な意味が与えられるようになっていた。
 聖書を開き、適当に数字だけ拾い読みしていると、「3・4・7・12」の四つが意図的に用いら れているのがわかる。「12」は先に述べた1年が12ヶ月であることから神秘性が導かれてい た。「7」は月の運行から導かれた数だ。そして「4」は春分秋分、冬至夏至を知る必要性など が考えられるのだけれど、「4」以下の数字は観念的な理由や幾何学的な理由から重要性を 得ている場合が多く、これはどの文化にも相当する思想がある。
 まず、「1」は始まりや唯一であることを意味し、多くの場合『神』を表す。「2」は対立する二つ を意味し「1」に対して負のイメージを持つ。そして「3」に至り、点は初めて面としての広がりを 持ち、老子が『三は万物を生ず』と言ったように、ポリゴンが3角形で造形されるように、「3」は 完成された世界の最小単位であると言える。それゆえ「3」には完全という意味が与えられ た。聖書に登場するのもその意味でだろう。そして「4」。これは安定や静止を意味し、また「3 +1」によって、ひとつ進んだ、より完成された世界という意味もあったよう。同様に「5」から先 の数にもそれぞれ意味が込められているのだけれど、ここではとりあえず「1~4」が重要なの で 以下省略
(この手の話は荒俣宏の『神秘学マニア』が詳しい。)



さて、
 少し話が膨らんだけれど、古代において天文学は重要な役割を果たし、そこから導かれた数 字には様々な意味が込められていた事を理解してもらえたかと思う。
そして108思想に触れてみよう。
「108」という数は「12×9」によっても導くことが出来る。つまり108を12進法で表記すると、  その値は90。そして直角を表す「90度」。108という数が我々現代人にとって意味を持つ数字 になるのはこれ以外に見当たらない。少しこじつけのように思われるかもしれないが、108が これを示唆していると考えると、全てが見えてくる。
『90度』というのはつまり、天空を四分割した数なのだ。したがって「108」の4倍である「432」 これが全天空を意味する数字であると考える事が出来るのだ。
そう、世界の原点である「1」に始まり宇宙は「1・2・3・4」という見事なハーモニーを奏で、幾 何学的な調和によって、360では持ちえない魔力をここに展開する、というわけなのである。
これが『108思想』の忘れ去られた真実であろう。


やたらと引っ張ってみたものの、案外あっさりと片付いてしまった。
だがご安心を。この数字が持つのは数秘学的意味合いのみでは無い。

 「432」という配列を見て連想されるのが、
ボーデの法則 【 0.4+0.3×2のN乗 】

 これは太陽系惑星の太陽からの距離を記述する式なのだ!

この式によって得られる数字と惑星の並びはほぼ比例し、その理由はいまだ不明なのである!! この式は当時まだ発見されていなかった天王星の存在を予言し、見事それのあるべき座標 に天王星を発見した。だが残念なことに、その後発見された海王星と冥王星はこの式に合致 しないことが判明し、この法則はなりを潜めることになる。だが、これは偶然として片付ける事 が出来ぬほど、美しい符合であろう。

 「432」宇宙を記述するのにこれ以上にふさわしい数は無い。


 『大は小を模す』 宇宙はフラクタルなのだ。量子論の示す極小世界の法則は全宇宙を無 矛盾に満たしている。全ては繋がっているのだ。それゆえこうした奇妙な合致は偶然ではない 事が多い。我々はまだその理由を知らないだけなのだ。 古代の人々が何を思い数字に意味を込めたのか、具体的にどのようにして数字を導き出した のか不明だが、そこには古代人の思慮深さや神秘性が存在するのかもしれない。

あるいは人間ヒマが過ぎると奇妙なことに労力を注ぐという例なのかもしれない。








補足

※1  協和音の原則
     ピュタゴラスが最初に記載したとされているが、彼の発見かどうかは不明。
     その長さが、2:1 3:2 4:3 のときを完全音程(perfect interval)と呼び、
     それぞれオクターブ、完全五度、完全四度 と呼ばれる。


※2  テトラクテュス(四つの数の和)
『10という数は考えうる幾何学的次元数の和になっていることから(1+2+3+4)、
宇宙を表わす数と考えられたのだ。
一つの点は次元のはじまりであり(0次元)、二つの点は直線を決定し(1次元)、 三つの点は平面を決定し(2次元)、四つの点は四面体(3次元)を決定する。』
( 『無限に魅入られた天才数学者たち』より抜粋 )
また、10はピュタゴラス派のいう“三角数”でもあるという点で重要性を持っていた。
後世のユダヤ神秘主義、カバラにおいても「10」はセフィロトという考え方の中で重要視されるのだが、 ユダヤ教におけるその重要性は紀元前13世紀、モーセの「十戒」においてすでに表れている。



主な参考資料

【エンカルタ百科事典】
【神秘学マニア】   荒俣宏(著)
【無限に魅入られた天才数学者たち】 アミール・D・アクゼル(著)




’02.3 初稿
’03.6.27 加筆訂正
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